「ABA(応用行動分析学)」の概要

 ABA(応用行動分析)とは、指導者が子どもに介入することにより外部の環境を系統的に操作し、望ましい行動を教え、また不適切な行動に対処することで、子どもが適切な行動を獲得することを支援する方法です。狭義の応用行動分析は心理学の一分野であり、その適用が自閉症児者への療育で高い成果を上げています。英語の頭文字からABA(Applied Behavior Analysis)とも呼ばれます。自閉症療育の分野では、「行動療法」、「ABA」、「応用行動分析」などと呼ばれているものの、概要としては同じ意味で使われます。


行動療法の2つの基本的な特徴

  • 療育目標は行動そのものの変容である
  •  自閉症児者は脳器質障害を持つとされていますが、行動療法では中枢神経系、認知機能、情緒の正常な発達を主目的とはしません。行動を学習することにより主体的な社会参加が可能になるという立場を取っています。

  • 科学的な測定あるいは評価を含む
  •  療育の実施中に、「修正(変容)されるべき行動は適切か?」、「行動の測定は、妥当で信頼性があるか?」、「行動の変容は、実施した療育手続きに起因したものか?」、「実施した療育手続きはもっとも効果的か?」という評価を絶えず行います。これらの評価は、概念的な説明をするのではなく、客観的かつ具体的なデータで検証されます。


     ABAの典型的な療育は、指導者が自閉症の子どもと1対1で行われます。ABAの療育の指導者は、セラピストまたはABAセラピストと呼ばれます。ABAセラピストは、子どもに教える課題を小さなステップに分け、かつ計測が可能な形で子どもに教えます。その際に用いられる原理が、狭義の応用行動分析であり、それはB.F.スキナーが提唱し体型化されたものです。計測可能な形式で行うことから、客観的に子どもがスキルを習得したかどうかを評価でき、エビデンス・ベースの療育法の典型例です。個々の自閉症の子どもの記録のみならず、何人かの自閉症の子どもたちの記録を収集し、群間比較や統計的解析をした多くの研究があり、急速に発展しました。

     3歳から5歳の自閉症の子どもに応用行動分析による早期集中療育をすることで、子どもの認知機能の改善や行動能力の改善が見られます。1973年にUCLA(米カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のイヴァー・ロバースは、19人の自閉症児に週40時間の集中療育を2年間実施し、うち9人が健常機能を獲得したと報告しています。

     応用行動分析は、自閉症の子どもを一対一で療育する手法のみならず、様々な社会的問題を扱うための人間の行動原理を研究する学問です。何をなぜ教えるかには、幅広い考え方があり、多くの異なる立場の研究や、療育プログラムがあります。


    行動分析の基本原理

     行動分析学を築いた、B.F.スキナーは「行動とは生体の持つ機能な中で外界に働きかけ、外界と交渉を持つもの」と定義しています。また、オージャン・リンズレーは「行動とは、死人にはできない活動のこと」と定義しています。

     行動分析では行動の原因を考える時、「現在の環境要因」を重視します。一方で体の中に原因がある考え方を「医学モデル」と呼びます。例えば、体の中にインフルエンザ・ウィルスがいるので発熱や関節痛がある、内出血が起こったので青く腫れる、乳酸が蓄積したので筋肉痛になった、などです。医学モデルを取ってしまうと、行動の原因を心の中に求めることになり、「やる気がないから、何々ができない」、「意志が弱いから、何々を我慢できない」と考えがちです。行動分析の考え方と医学モデルは対照的です。

     行動分析で対象としている行動は、「レスポンデント行動」と「オペラント行動」の2種類に分けることができます。行動の原因となる外界の刺激がまず現れ、次にそれに対応して行動が起こるタイプをレスポンデント行動を言います。行動の後に発生した結果が、行動の原因になることを「オペラント行動」と言います。レスポンデント行動は唾液分泌や膝蓋腱反射のような生体に備わる単純な反射ですが、オペラント行動は日常生活の経験から学習される行動です。行動の原因を分析する枠組みとして、行動とその直後の環境変化の関係は行動随伴性と呼ばれます。

     行動の直後に環境の状況が変化すると(行動随伴性)、その行動の頻度は将来変わっていきます。行動随伴性により、行動の回数が増えることを強化、行動の回数が減ることを弱化とそれぞれ呼ばれます。強化された時に出現したものを好子、弱化された時に出現したものを嫌子、とそれぞれ呼ばれます。行動の頻度が変わるもう一つの原因として、環境からその状況が無くなると言うタイプのものがあります。行動の回数が増えた時に消失したものを嫌子、行動の回数が減った時に消失したものを好子、とそれぞれ呼ばれます。したがって、基本的な行動随伴性としては、「好子出現の強化」、「嫌子出現の弱化」、「嫌子消失の強化」、「好子消失の弱化」の4タイプがあります。強化されてた行動であっても、その行動の後に何も環境の変化が起こらいと、いずれその行動はしなくなります。このことは「消去」と呼ばれます。


    問題行動の原因を理解

    1.要求の実現
     おもちゃが欲しい、何かをやりたい、など本人の要求が問題行動の原因となっていることがあります。例えば、おもちゃ売り場で、かんしゃくを起こし、おもちゃを買ってもらえた(要求が実現した)場合、今後そのかんしゃくの行動が増えることが予想されます。

    2.回避と阻止
     本人がいやな状態からその場を避けることができた時、不適切な方法でも回避できたという経験が問題行動の原因となります。例えば、友達に手を握られていて、手を握られるのが不快で、友達の手を噛むと友達が離れた。この時、「噛む」という行動で不快を回避できたため、嫌なことから避けるために同じ行動を繰り返すことになります。この行動は「回避」を原因とする問題行動にあたります。

    3.注目要求の実現
     相手や周囲、家族や保育士の先生などの注目が欲しいという欲求が問題行動の原因になっている場合があります。例えば、友達を急に叩いた結果、先生の注目が得られた場合、その「注目」が、問題行動を繰り返す要因となる可能性があります。

    4.自動強化(感覚刺激)
     問題行動が生み出す刺激自体が、快を生み出して、問題行動の循環に陥っている場合があります。手をひらひらさせたり、ぐるぐるまわる、つばを出したり入れたりするなどは、退屈や不安がまぎれるという感覚刺激自体が行動を繰り返させる原因になっている場合があります。


    ABC分析

     自閉症児者が不適応行動を起こす原因は様々なものが考えられます。環境的要因、医学生理学的要因、自己刺激行動、注意喚起、逃避・回避などがある。ABAでは、不適応な行動の原因を見極める方法として、今起こっている問題行動などを噛み砕いて理解するためにABC分析という手法を用います。

    Atecedent(状況)+ Behavior(行動)= Consequence(結果)


    オペラント行動とレスポンデント行動

    レスポンデント行動 自分の行動云々では変化することのない環境に影響される行動
    オペラント行動 自分の行動によって変化した環境に影響される行動


    ABAのアプローチ方法

     ABAでは、まずどの要素が行動に影響を与えているか分析、洞察することが必要です。
     ABAのアプローチとしては、①環境や結果と行動を切り離すことにより行動を弱める“消去”②環境と行動の関係性を強めることによる“強化”を使い分けていきます。それぞれ負の消去、正の消去、負の強化、正の強化と分かれます。
    【消去】
     人は行動のあとにほうびとなる出来事が得られないと、その行動が減少していきます。これが「消去」です。
    【強化】
     人は起こした行動に対する結果が望ましいものだと、以降もその行動を繰り返しやすくなります。この望ましい結果(ほうび)を与えてその行動を増やすことを「強化」と言います、またそのほうびのことを「強化子」と言います。お菓子や、おもちゃ、褒め言葉など本人が喜ぶものはどのようなものでも強化子になります。
    【罰】
     罰には積極的罰と消極的罰があります。ABAの療育では、きつく叱ったり、叩いたりするような積極的罰は避け、ほうび(快)を取り去る消極的罰で対応します。

    強化とは何の強化なのか。
    B: 行動の強化です。
    「ありがとう」と御礼が言える行動を増やしたい ⇒ このときは『強化』します。
    逆に噛み付いてくるという行動は減らしたい ⇒ そのときは「消去」していきます。
    そして正と負は何に対して正負なのか。
    C: 結果のコントロール方向が正か負か、です。


    応用行動分析(ABA)の代表的なテクニック

    プロンプト(prompt) 望ましい行動を引き出すために、行動の指示である弁別刺激と一緒に用いられる補助的な刺激。プロンプトには、身体プロンプト、視覚的プロンプト、ジェスシャー、モデリング、位置プロンプト、言語プロンプトなどがある。
    シェイピング(shaping) 目標とする行動に少しでも近い行動を強化しながら目標とする行動を形成する手法。分化強化とも言われる。初めは低い合格基準によって強化を行い、徐々に強化する基準を引き上げていく。
    課題分析(task analysis) 一連のスキルを指導する場合に前もって、そのスキルがどのような動作によって構成されてるかを分解する作業。スキルを教える際には、分解された行動(タスク)を一つずつ教えて聞く。
    順行連鎖(forward chaining) ひとつのスキルのタスクを前から順番に教えていく方法。最初のタスクから子どもに実施させ、できなくなるタスク以降を指導者がプロンプトして成功を導き、全体のスキルの動作を完了させる。
    逆行連鎖(backward chaining) ひとつのスキルのタスクを後ろから順番に教えていく方法。最初のタスクから最後のタスクの直前まで指導者がプロンプトして成功を導き、最後のタスクを子ども単独で行わせる。それができるようになったら、最後から2つ以降のタスクをプロンプトなしで子どもに行わせ、徐々にプロンプトなしでできるタスクを増やしていく。


    応用行動分析(ABA)の療育スタイル

     ABAの療育には、不連続試行(DTT)、と自然環境教育(NET)の2つのスタイルがあります。

     不連続試行(DTT: Discrete Trial Training)は、子どもとセラピストが机の前に一対一で向かい合って座わり行われます。課題は、小さな単位に構成され、「指示+プロンプト→子どもの行動→強化」の試行を繰り返して行います。
     自然環境教育(NET; Natural Environment Teaching)は、子どもの自然の遊びや生活の中で、良い行動を強化していくスタイルです。